MAYO v. PROMETHEUS 米国最高裁判決

| March 23, 2012

No. 10–1150. Argued December 7, 2011—Decided March 20, 2012

For an English discussion of Mayo v. Prometheus, please click here.

背景

Prometheus Laboratories(以下、Prometheus)は、自己免疫疾患を治療するためのチオプリン(thiopurine)ドラッグに関する2つの特許(U.S. Patent No. 6,355,623、No.6,680,302)の独占的使用権を有する。特許クレームは、チオプリンが投与された患者の血中の代謝物量を測定し、それに合わて投与量を調整する方法に関するものである。

代表的な623特許のクレーム1は下記の通り。

免疫介在性胃腸疾患の治療効果を好適化する方法であって、

(a)前記免疫介在性胃腸疾患を有する対象に、6-チオグアニンのドラッグを投与する工程、および

(b)前記免疫介在性胃腸疾患を有する対象における6-チオグアニンのレベルを決定する工程を有し、

(以下、wherein節)前記6-チオグアニンのレベルが8×108赤血球当たり約230 pmol未満であるならば前記対象に対するその後のドラッグ投与量を増加する必要性を示し、そして、

前記6-チオグアニンのレベルが8×108赤血球当たり約400 pmolを越えるならば前記対象に対するその後のドラッグ投与量を減少する必要性を示す方法。

Prometheusは、上記特許によりカバーされているチオプリン代謝テストサービスを提供していた。2004年、PrometheusはMayo Collaborative Services and Mayo Clinic Rochester (以下、Mayo)が特許方法を無断で使用しているとしてMayoを地裁に提訴した。

2005年、地裁はMayoは特許を侵害しているとの判決を出した。これに対し、Mayoは特許クレームは101条の特許可能な主題ではないとして無効判決を申し立てた。地裁はMayoの申し立てを認め、特許無効の判決を出した。地裁は次の点を理由として挙げた。投与量の調整の必要性を示すwherein節の記載は、ドラッグの代謝レベルと治療効果の相関性(correlation)を記載している。そしてクレームは投与工程(a)と決定工程(b)を記載しているものの、それらは、その相関性を見るため単に必要とされる情報収集工程(merely necessary data-gathering steps)を記載している。これは精神活動(メンタルステップ)である。さらに、その相関性は自然現象に過ぎず発明者が発明したものではなく、このような自然現象自体をカバーする特許はその相関性の利用を独占することになる。Prometheusは地裁の無効判決を不服とし、米国巡回区控訴裁判所(CAFC)に提訴した。

CAFCは、地裁の無効判決を破棄し、Prometheusの特許は有効であるとの法的判断を下した。CAFCの判決理由は次の通り。CAFCのBilski判決で示されたように、クレーム方法が特許可能であるか否かはマシン-トランスフォーメーションテストによる。すなわち、その方法が(1)特定のマシンや装置に結びついているか、もしくは(2)特定の物体を、異なる状態、もしくは異なる物にトランスフォームする場合、そのクレームは特許可能である。本件では、ドラッグの「投与工程」とドラッグ代謝物レベルの「決定工程」は「トランスフォーム」の要件を満たしており、単なる情報収集工程ではない。そのようなクレームは、wherein節の「相関性」の使用を独占するものではない。このCAFC判決を受けてMayoは米国最高裁判所に上告した。

CAFCの上記判決の後、最高裁のBilski判決が出た。この中で最高裁判所は、マシン-トランスフォーメーションテストは特許可能性を決定するための「唯一」のテストではないと判示し、下級審に柔軟な判断を求めた。

その後、最高裁判所は上記CAFCの判決からのMayoの上告を受理した。最高裁は、このCAFC判決を破棄し、最高裁自身のBilski判決の観点から、同ケースを再審理するようCAFCに差し戻したのである。

しかしながら、上記差し戻しを受けたCAFCは前回と同様の結論を維持した。CAFCは、Prometheusの特許クレームにマシン-トランスフォーメーション分析を再度適用した上で、前回と同様に特許有効の結論に導いた。CAFCは、最高裁のBilski判決はマシン-トランスフォーメーションテストは「唯一」のテストではないという点が重要であり、そのテスト自体を否定するものではないことを強調した。そして、特許クレームの投与工程と決定工程は、自然法則の「特定のアプリケーション」であると理由付けた。投与される工程で、体内でドラッグが代謝され変化すること、そして、代謝物量の決定工程は血液採取と物質量の測定という処置を伴うので、トランスフォーメーションがあるという見解である。

Mayoは、投与工程と決定工程は付加的対処行為(extra-solution activity)であり、治療行為の一部ではないと主張したが、CAFCはこれを否定し、それらは明らかに治療プロトコルの一部であって、治療方法と一体的な関与(integral involvement)があると述べた。CAFCは、それらの工程は「単なる」情報収集工程ではないと繰り返し述べた。CAFCは、特許クレームのwherein節の部分は自然法則であり、それ自体は特許可能ではないことに同意したものの、本件クレームを全体(as a whole)として評価すれば、単なる精神活動ではないという立場であった。

Mayoは再度、最高裁に上告した。最高裁は本件を受理し、本判決を下した。

判決概要

結論

特許クレームの方法は、米国特許法第101条の下、特許可能な主題ではない。

判決理由の要点

以下は筆者の私見を入れず、判決内容を日本語でまとめたものである。

「自然法則」あるいは「自然現象」は、米国特許法第101条の下、特許可能な主題ではないが、それが公知の構造やプロセス対するアプリケーション(適用)を記載する場合は特許可能性がある(Diamond v. Diehr)。しかしながら、特許対象でない自然法則が特許可能なアプリケーションにトランスフォームされているというためには、特許クレームは単に自然法則を記載するだけでなく、そのアプリケーションの具体的な記載が付加されていなければならない。

すなわち、抽象的アイデアは特許対象の例外であるところ、Bilski判決で示したように抽象的アイデアを周辺的な特定技術で使用することに限定する(to limit the use of the formula to a particular technological environment)だけで、その例外から免除されるわけではない。

本件特許クレームは、投与後の血中のドラッグ代謝物の量と、そのドラッグによる効果やリスクの見込みとの相関関係を記載しており、これは自然法則そのものである。このクレームは、自然法則の真の応用(アプリケーション)を確実に具現化する追加的特徴(additional features)を記載しない限り、特許されるものではない。むしろ、その自然現象である相関性を独占することを狙ったクレーム作成者の努力(drafting efforts designed to monopolize the correlations)に過ぎないといえる。

本件の争点は、自然法則である相関性の記載に対して、それを利用する特許方法が「十分なもの」を付加するように記載されているかである。これに対する最高裁の答えはNOである。理由は以下の通り。

本件の「投与工程」と「決定工程」はいずれも、トランスフォーメーションがない。

「投与する」工程は、当該相関性を知るべき患者のグループを特定する工程に過ぎない(simply identifies a group of people who will be in­terested in the correlations)。そのような対象グループを特定するよりも以前に、そのドラッグを患者に投与するという医者の行為そのものは存在している。

「決定する」工程は、医者に代謝物レベルを測定することを指示する工程である。実際にどのような工程を経るにせよ医者が望むであろう方法で行われる。このような工程は、この技術分野で周知であり、ルーティンであり、そして従来から存在する行為である。決定工程は、医者を周知の行為に関与させることを述べているに過ぎない(simply tells doctors to engage in well-understood, routine, conven­tional activity previously engaged in by scientists in the field)。さらにいえば、将来的には血液をトランスフォームすることが一切不要となる技術が登場するかも知れない。したがって、血液の採取等の処置を想定することはトランスフォーメーションの根拠とならない。

最高裁は、本件発明の時点で、その薬物の血中代謝物レベルがその投与量の有効性や有害性の見込みと相関していることが公知であったことを強調している。結局、上記の工程を組み合わせたところで、自然法則以上のものを何ら付加するものとはいえないとの見解を示した。

下記の通り、上記の結論は過去の判決からも支持される(DiehrとFlook)。

Diehr判決では、数式を用いる方法が問題となったが、その付加的な工程は数式をそのプロセス全体に一体化させるものであった。このような場合は特許可能であると判断した。その付加的工程はプロセスを「発明的(インベンティブ)」なアプリケーションにトランスフォームしたといえる。

他方、Flook判決では、その付加的な工程はクレームを特定のアプリケーションを限定していないため、特許可能ではないと判断した。アイデアのアプリケーションにおいて発明的概念(インベンティブコンセプト)は存在していなかった。

本件クレームの特許性は、特許可能と判断されたDiehrのケースよりも弱く、そして、特許可能でないと判断されたFlookより強くも無い。自然法則に対して付加したものが、高度に具体化されてはいるが一般的な従来の工程であるので、それにより自然法則が特許可能になるわけではない。

最高裁はBenson判決で示したように、特許法が自然法則の利用を不適正に制限することによって将来の発見が妨げられてはならないことを繰り返し強調してきた。自然法則の発見を特許により奨励することは発見の奨励にはなるかも知れないが、それらは科学技術行為の基本ツールであるから特許することで自然法則の利用が妨げられ、ひいては将来のイノベーションが阻害される危険がある。クレームが自然法則を適用するための一般的なインストラクションを超えるものでなければ、その危険は明白となる。

上記Bensonケースでは、クレームにおいて数式がコンピュータと関係する点を除くと、実質的に具体的なアプリケーションは存在していなかった。これと同様に、本件特許クレームの範囲も非常に広く、そのようなアルゴリズムを適用するクレームと実質的には区別がつかないといえる。

つまり、本件特許クレームは将来のイノベーションを阻害するリスクをはらんでいる。この方法特許は、「相関性」の観点を利用するために必要なデータを収集することを医者に指示するものであり、それ以上のものではない。それは、(1)医者にドラッグ代謝物の測定すること、(2)自然法則である相関性を利用すること、そして(3)その観点から投与量を見直すことを、指示するものであり、その行為を制限するものである。その効果といえば、医者に自然法則の利用を指示するというだけである。このクレームは、当該相関性とその後の新たな発見との組み合わせを妨げることでその治療行為のさらなる発展を阻害するといえる。

他方、Englishケースで最高裁は、着火原理を使用する特許の特許対象性を認めた。低温空気下よりも高温空気下の方が着火が起こりやすいという自然法則を使用するものであったが、そのクレームはその原理を記載するだけではなく、送風装置を使用した発明的な方法でその原理をどのように利用するかを記載していた。その方法には、従来にはない(unconventional)工程が幾つか関与していたのである。

Prometheusは、特許クレームが関与する自然法則は十分に狭い範囲に特定されている点を主張するが、これは特許を認める理由にはならない。狭い範囲に限られた自然法則であっても将来の研究を妨げる可能性がある。

なお、米国政府からは、自然法則そのものの記述を実質的に超える何らかの工程があればトランスフォーメーションがあるとすべきであるとの意見が出された。米国政府は、他の条項(新規性、自明性)によるチェックがあるので自然法則をほんのわずかに超える程度の発明はいずれにせよ特許にならないという見解である。しかしながら、最高裁は、このような政府のアプローチは101条の例外的取り扱い(自然法則は特許対象外)を形骸化するであろうと考えている。最高裁は先例ケースで、太陽のもと人間の手で作られたいかなるものも発明たり得るが、だからといって、それが101条の下では「必ずしも」特許可能であるわけではないと述べたことを指摘する。最高裁は、自然法則に付加される工程の判断に際しては、101条の特許可能な主題と102条の新規性とが多少重複し得ることは認識しているが、特許性の判断を他の条項にシフトさせるのは法的安定を害し危険であると考えている。

最後に、Prometheusは診断医療の分野はコストが高く、この分野の発見に保護が必要であると主張した。しかしながら、最高裁はその分野の専門家には反対の意見も多いことを認識している。最高裁はそのように意見が分かれていることは理解しており、結局特許は両刃の剣であることを認識している。結局のところ、最高裁は特定の分野のニーズに合わせて新しい保護ルールを設けることは予期できない事態を招きかねないので従来の一般的ルールから逸脱してはならないと考えている。ルールを調整する必要があるのであれば、それは米国議会の役割であると認識している。

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